あいのうた 4





その日は近くのアウェイゲームだった。

スタンドにの姿を見つけた。態々足を運んでくれたのだ。一は、張り切りすぎてうっかりハットトリックを決めた。

「一って、ホントに凄いんだ...」

ゴールを決めるたびにスタジアムが沸く。

地鳴りのような歓声。そんな中にいるはどうにも居心地が悪い。

ゴールを決めるたびに、一はにキスを投げていた。

勿論、スタンドのサポーターは自分たちに対してだと思い、大いに盛り上がっていた。

そして、で自分へのそれだと分かって、どう反応していいか戸惑いながら試合終了のホイッスルを待った。


試合が終わり、選手達がスタンドの前にやってきた。

サポーターが彼らの活躍をたたえ、選手はサポーターに謝意を表わしている。

日本のリーグも見に行ったことがないにはとても新鮮な光景だった。

!」

一が名を呼ぶ。

彼はに向けて親指を立てて笑った。

はそんな一を誇らしく思い、同時にズキンと胸が痛む。

この感覚、知ってる...

一に微笑み返してその場を凌ぎ、は帰宅するため、ステーションに向かった。

また、だ。

溜息を吐いた。

自分は何で成長しないのだろうか...

先ほどの胸の痛みは、自己嫌悪だ。

一は凄い。それはたくさんの人が認めている。自分だって、一を凄いと思っているし、それを誇らしいとも思っている。

だが、それに対して。そんな彼に対して自分はどれだけ応えることが出来ているだろうか。

知らないこと、出来ないことが沢山あって。

彼はそれでも良いと笑って抱きしめてくれる。

それに甘えて、自分を許している自分が、時々無性に腹立たしい。

この間だって、頑張ってみたけど、結局一の気持ちに甘えて有耶無耶に終わった。

「どうして上手に出来ないんだろう...」

ポツリと呟き、再び自己嫌悪で胸が痛くなる。


クラクションが耳に入って振り返る。少し後ろに停まっている車の窓が開いて翼が顔を出した。

「わ、翼!」

思わず声が弾む。

知らない土地で知っている人を見かけると必要以上に心が躍る。

「久しぶりだな。一の応援に来たのか?」

「うん。翼は?」

「こちらのshowに招待されてな」

「それは、着る方で?見る方で?ファッション関係でしょ?」

「ああ。今回は、キャットウォークは歩いていない」

つまりは、招待客としてステージを見ていたと言うことだ。

「これから帰るのか?一は??」

「うん、帰るとこ。一はチームで帰るから」

「それでは、お送りして差し上げては如何でしょうか翼様」

運転をしている永田が言う。

「こんばんは」と永田に声をかけると「こんばんは、さん。お久しぶりでございますね」と丁寧な挨拶が返された。

「そうだな。送ってやろう」

「翼は、この後用事はないの?」

「今日のscheduleは先ほど出席したshowで終わりだ。気にするな」

「じゃ、お言葉に甘えます」

がそう言うと永田が態々車から降りてドアを開けてくれた。

「あの、永田さん...」

「どうぞ」

「そこまでしていただかなくても...ありがとうございます」

笑顔で促されてはそそくさと車に乗った。


「今日の一は、hat trickだったそうだな」

車が走り始めてから翼が口を開いた。

「何で知ってるの?」

「先ほど、何を熱心にお調べになっているのかと思えば...」

車を運転する永田が翼をからかうように言う。

「う..五月蝿い!仲間の活躍は気にして当然だ!!」

何を照れくさいのか、翼がムキになる。

はクスクス笑う。

「笑うな!」と翼に言われて「はーい」と笑いを堪えながら震える声で『良いお返事』をした。

さんは、日本にはいつ戻られるのですか?今回は、ずっとイタリアに滞在される予定ですか?ヨーロッパを旅行される予定などはございますか?」

バックミラー越しに後部座席を見ながら永田が言う。

「あと半月程度はこっちでのんびりとバカンスです。けど、一が今アウェイゲームが多いので、足を伸ばして遊びに行ったらどうかって言ってくれてるのでどうしようかと悩んでるところなんです。少なくとも、来週はアウェイゲームしかないし。イギリスに瞬、フランスにはゴロちゃんもいるので。せっかくなので、活躍中の姿を生で見たいし」

「ほう?なら、1週間後にはこの俺がモデルを勤めるshowがパリで開催される。招待してやってもいいぞ?何なら、悟郎もまとめて」

「ホント?興味ある!」

「なら、永田!」

「ちょっと、永田さんは運転中。もうちょっと待とうよ」

運転中にも関わらず永田に用事を告げようとする翼にが声をかけるが「大丈夫ですよ、さん。この永田、慣れっこです」と苦笑しながら永田が言う。

「ほら、永田は凄いんだ。何せ、この俺の秘書だからな。ハーッハッハッハ!」

「ごめん、翼。狭い車内での高笑いはやめて」

「何だと?!この俺の車の何処が狭いんだ?!」

ムキになって言い返す翼に対しても負けじと返す。

子供達がじゃれている様子に永田は心が和んだ。









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桜風
12.9.2


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