| 一が家に帰ると電気が消えていた。 「おーい、ただいまー」 家の中に声をかけても返事がない。何より、人の気配がない。 ドクンと心臓が強く打った。 慌てて携帯を取り出してコールしようとダイヤルを選択したところで玄関のドアが開き、「あれ?」と声がした。 「お帰り、一。早いじゃん」 「...」 呟いて一は彼女を強く抱きしめる。 「は..一?!」 「どこ、行ってたんだよ」 搾り出すように一が言う。 「えっと、帰りに偶然翼に会って。車で送ってくれるって話だったんだけど、カフェに付き合えって言われて。一、試合の日は帰り遅いから大丈夫かなって...」 ギリッと一が歯を食いしばる。 「それなら、連絡くれてもいいじゃないか」 「だから、一が帰ってくるまでに家に帰るつもりだったんだから」 「けど!心配したんだ!!」 抱きしめていたの体をバッと離して一が真剣な眼差しで言う。 「どっかで倒れたんじゃないかって。俺が、慣れないこっちに誘ったくせに一緒にいられないから、もしかして無理してたんじゃないかって...」 「ご..ごめんなさい」 しゅんとなってが謝る。 ぎくしゃくとした空気のまま、その日は床についた。 ぎくしゃくとした空気はそれからも続き、正直、お互い、一がリーグ中で、試合がアウェイで良かったと思うほどだった。 そして、一と喧嘩をしてから1週間後。 翼が言っていたパリのステージの招待状が届いた。 というか、永田が迎えに来た。 さすがにそれを予想していなかったは驚き、そして少しだけ泣きそうな表情をした。 その表情を目にした永田は不覚にも驚きの表情を浮かべてしまった。 「さん?」 「はい?」 名を呼ばれて返事をしたはいつもの彼女だった。 「では、途中風門寺さんをお迎えして会場へと向かいます。草薙さんには、このことはお話しされていますか?」 「あ、はい」 話はした。 一応、今回は帰るのが遅くなる可能性があるから。 「それでは、遅くなっても安心ですね」 永田がそう言い、車までをエスコートした。 フランスに入国し、悟郎のアトリエに向かう。アトリエに迎えに行くと連絡をしていたのだ。 悟郎を出迎えに行った永田がいない車内はひとりだ。 バッグから取り出して携帯を見る。 今日は、デイゲームだった。 キックオフの時間はとっくに過ぎている。 時差の計算も早くなったものだ... 「ちゃーん!」 永田がドアを開け、それに礼を口にした悟郎は車内のを見て元気よく「ポッペラー!」と挨拶をする。 「久しぶりだね、ゴロちゃん」 が返すと悟郎が深刻な表情を浮かべた。 「どうしたの?」 「何が?」 返したの表情は、高校時代によく浮かべていた彼女の作った笑顔だった。 「ハジメと喧嘩でもした?」 に元気のない原因を聞きだそうとする悟郎の言葉に耳を傾けながら、永田の運転する高級車は滑る様にパリの道を走った。 |
桜風
12.9.16
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