| 頬を撫でる指先がくすぐったい。 は肩を竦めてゆっくり目を明けた。 「あ、悪い。起こした」 「ううん」 少し寝ぼけた声では返す。 一はそんな彼女の前髪を上げて、現れた額に唇を落とす。 「一は、寝てないの?」 「勿体無いだろう?」 「変なの...」 そう言いながらはクスクスと笑う。 「あのさ」と一が言いにくそうに口を開く。 「なに?」 「体、大丈夫か?」 一の言葉には赤くなる。 「優しくしてくれたんでしょ?」 そういうは茹蛸のようで、一は思わず抱きしめた。 苦しいと言う意思表示には一の腕を叩く。 その腕を緩めた一に「何で服着てるの?!」がが放った言葉だった。 「や、寝るの勿体無くて。ちょっとシャワー浴びたから着たんだ」 「自分だけずるい」 が拗ねる。 「ちょっとは思ったんだぜ。も一緒に入るかなって。けど、すげー可愛い寝顔見たら起こせないだろ?」 さらっと一がそういい、再びの頬が赤くなる。 可愛いからとキスをすれば益々赤くなって、またキスをする。 「なあ、」 ぎゅっとを抱きしめた一が意を決した。 「なに?」 「オレは、と結婚したい」 腕の中のがビクリと反応した。 タブーだとは思った。けど、彼女を誰にも渡したくないし、自分もちょっかいを掛けられるのは正直不愉快でもある。 「の両親みたいなのは、ひとつの例で。ウチの両親や、のじいちゃんばあちゃんみたいにずっと一緒なことだって少なくないんだ」 一は一生懸命言葉を捜す。 あまり頭は良くない。だから、が納得するような理屈は説明出来ないだろう。 「あのね、ハジメちゃん」 「...なんだ?」 ドキリとした。が『ハジメちゃん』と自分を呼んでいた幼い頃に彼女は凄く大変な思いをして、そして愛を信じられなくなっていた。 今、このときにそんな呼び方をされると拒絶されてしまうのではないかと不安になる。 「今日、翼の出演するショーを見に行ったでしょ?ゴロちゃんも一緒に」 「ああ」と一は頷いた。 「わたし、ゴロちゃんにね。告白されたの」 「は?!」 一は思わず声を漏らした。 を見下ろしたが、彼女の表情が見えない。 「一、知ってた?」 「...まあ、最初にライバル宣言したのって悟郎だし。瑞希もそれに乗っかった」 「なんだ。知らなかったの、わたしだけなんだ...」 沈んだ声音で彼女が呟く。 「それで、悟郎が何だって?」 とりあえず話の続きを促すことにした。 「ゴロちゃんに言われたの。わたしが、我侭を言える相手ってハジメちゃんだけだって。だから、ゴロちゃんも仕方ないって諦めたって。わたしね、言われて『あ、そっか』って思ったの」 「うん」 「わたし、何だかんだで色々と上手に出来ないし、結構面倒くさい性格だと思うの。人の感情に無神経だし」 言葉を返す代わりにをギュッと抱きしめる。 「これからも、我侭、言ってもいいかな」 覗うように見上げて彼女が言う。 「おう。オレはずっとずっとの我侭、聞くぜ」 ニッと笑って、腕を緩めてキスをする。 「さっき、帰ってきた一から聞いた話、凄く..やだった」 「やきもち焼いてくれたんだな」 嬉しそうに呟く一の胸をドンと叩いたは彼に背を向ける。 「おーい、...」 情けない声を出して自分の名を呼ぶ恋人をクスリと笑い、 「一、失業してもわたしが養ってあげるから安心して!」 と宣言する。 「え、それは...オレ、サッカーもしたいし」 困ったように返す一が可笑しくては声を上げて笑う。 の笑い声が嬉しくて、一も笑った。 「」 「ん?」 振り返った彼女にキスをした。 「好きだよ」 一瞬怯んだ様子を見せたは少しぎこちないながらも微笑んだ。 「一の愛だけは、信じるよ」 の言葉に、一は言葉を失った。 彼女が唯一信じる『愛』は自分が彼女に向けるものだといわれた。 まっすぐ彼女への想いを口にする。 「愛してる」 |
桜風
12.11.18
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