| がベッドメイキングを終えて階下に降りるとコーヒーの香りが漂っていた。 「部屋割りは適当に決めてね。2部屋3人ずつ。一は、星太と同室でごめん。先生は申し訳ないのですが、私と同室です」 「私はお暇いたします」 そう言った永田に「え!?」と姉弟の声が重なる。 「俺、頑張ってベッド用意したのに...」 「いいじゃないですか。狭くて汚いかもしれませんけど。まあ、無理に、とは言いませんけど...」 そう言うと、「お前も泊まらせてもらったらどうだ」と翼が言う。 「...では。家事はお手伝いさせてください。落ち着かないと思いますので」 永田はそう言って深く頭を下げた。 と星太は顔を見合わせて「じゃあ、お願いします」と頭を下げた。 「クケー!」 ぴょこ、との服のポケットからトゲーが顔を出す。 「あ、トゲー!お前も来てたのか!!」 星太が嬉しそうに手を出すが、トゲーはそちらに行こうとしない。 むっと膨れる。 「俺のこと、覚えてないのかな??」 呟く弟に 「覚えてるから、でしょ?」 とが笑う。 の言葉に「トゲー!」と同意するようにトゲーが鳴き、ぴょんと跳ねて瑞希に向かっていった。 「どういう..こと?」 瑞希が聞く。 「ああ、小さい子ってやっぱり小動物の扱いが乱暴になると言うか...尻尾掴んで振り回したり、ね?」 「仕方ないじゃん。トゲーと遊んでたつもりだったんだよ、あれで」 膨れてそう返す弟には笑顔を浮かべた。 「あ、姉ちゃん。そういえば、隣の暇人次男坊。今日もうきうきと出て行ったよ」 「病院に来たわよ。おじいちゃんに捕まったけど。相も変わらずカサブランカ。嫌いじゃないけど、ほかの患者さんに迷惑がかかるからねー」 困ったようにが言う。 そんなのんきな姉に星太はそっとため息を吐いた。 「俺、あのおっさんに軽く見られてるからなー...」 不服そうに呟く弟には噴出した。 「あの人、まだ20歳とかだったと思うんだけど...」 「見た目十分おっさんだからおっさん。毎日来るのかな?」 心の底から嫌そうに言う弟に 「まあ、今回はいざとなったら瑞希とか翼とか永田さんが居るから大丈夫でしょう」 と宥める。 「ちょ!ちゃん!何でそこでボクが出てこないのさ!!」 不満を即座に口にしたのは悟郎だ。 「そうだぜ!オレだって役に立つっての。背、結構あるし。卒業してから少し伸びたんだぜー」 一も立候補した。 「あー...語学力の問題?ネイティブの英語、聞き取れて返せる?」 と現実を突きつけられて2人は打ちひしがれた。 そうだ、今はこの家の中だから日本語で会話が出来るけど、さっきの病院でも会話は英語で展開されていた。 「と、いうわけでネイティブと会話が出来る男性陣といえば、この3人。楽勝でしょう」 「ね?」とが瑞希に同意を求める。 瑞希は「うん......楽勝」と返して笑った。 そして、打ちひしがれている2人をちらりと見てふっと笑う。 その笑みが視界に入った2人はそのとき、日本に戻ったら英語を猛勉強すると心に誓った。 星太が男性陣を、が悠里を部屋に案内する。 「先生は、こっちのベッド使ってくださいね。私、帰ってきたときいつもそっちに寝てるので」 が言うと「ありがとう」と悠里が返す。 「そういえば、さんこちらで何かしているの?」 どうしてだろう、とが首を傾げると「それ」とが病院でも持っていた小型のノートパソコンを指差した。 「ああ、まあ。みんなにはナイショですよ」 そう言ってパソコンを見せた。 中には日本語での文章が入っている。 中身をざっと読んで驚いたように悠里は顔を上げてを見る。 「物語?」 「ええ、昔から何となくものを書くのが好きだったんです。で、まあ...その延長と言うか。出版に持っていこうって日本の北海道に居る獣医が言い始めて。ほら、大学の教授とかはそういう方面にも顔が利くでしょう?」 そう言って肩を竦める。 「凄いじゃない!」 「絶対理系の何かはいやだって思っていたので、まあ、やってみようかと書いているところです。でも、本当に形になるかってのが微妙ですしね。それに、形になったとしてもやっぱり驚かせたいじゃないですか」 いたずらっぽく笑って言う。 「さんには、進路指導できなかったからあなたがどういう方向に進むというのが分からなくて気になっていたの。そうか、良かった」 心底嬉しそうに悠里が微笑む。 「ご心配をおかけしました。あ、あと。大学にも通う..というか入学することになりました。合格できたので」 更にが口にした近い未来に悠里は破顔した。 「そう!凄いじゃない!!あ、でも退院してからということになるのかしら?」 「いいえ。通信制の大学です。卒業まで少し年数がかかると思うんですけど。あの病院はそういう授業が受けられるような体制もとってあるので、じゃあ、大学行ってみようかなって。祖父母も勧めてくれましたし」 の視線が確実に未来に向けられている。 彼女の話を聞いたとき、自分は後悔した。気づいてあげられなかった。話してもらえなかった。 でも、彼女は今間違いなく手放そうとしていた未来について語っている。 精一杯未来に手を伸ばしている。 その姿はとても眩しくて、そして胸の中の感情が高揚する。 「さん。私、応援しているわ!」 目の前のの手を取って悠里がそう言う。 は「ありがとうございます」と微笑んで返した。 |
桜風
09.3.7
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