Dear my friends + 7





翌朝早く、ボールを蹴る音がして目が覚めた。

窓を開けて下を見るとの弟がリフティングをしている。

目が覚めてしまったものは仕方ない、と清春は着替えて階下に降りた。

「おはよ」

キッチンに立っているが人の気配に気づいて振り返って言う。

「おー、早ェな」

ポリポリと頭をかきながら清春が言い、欠伸をかみ殺した。

「何か飲む?」

「水」

短く答えた清春に

「じゃあ、裏に井戸があるからそこのがいいと思うよ。意外とおいしい」

が言ってコップを渡す。

それは面白そうだ、とコップを受け取って清春はが言った『裏』に行ってみる。

本当にあった、と驚きつつも井戸の水をコップに注いで一気に飲む。

たしかに、おいしいと思った。

そして、そのコップを持ったまま先ほど星太を見たほうへと足を向ける。


「サッカーやってンのか」

不意に声を掛けられてリフティングをしていたボールを落としてしまう。

「あ、えーと。仙道さん。おはようございます」

「おう。学校でもやってンのか?」

自分にも弟が居るので、何となく構ってしまう。

「まあ、一応。仙道さんは..えっと。バスケ、でしたっけ?」

「...まァ、な」

仙道がそう頷くまでに少し間が空いてしまったので、悪いことを聞いてしまったのかな、と星太は心配になる。

「ナギの影響か?」

「ナギ?」

ああ、そうか。星太は『ナギ』では分からないか、と納得して「草薙一だよ」と言った。

「あ、ハジメ兄ちゃん。そうですね。影響っていうか、兄ちゃんがサッカー始めてから遊んでくれるときもずっとサッカーだったから馴染んだって言うか...部活したら家に帰る時間が遅くなるから、姉ちゃんの自分の時間が増えると思ったし」

「なァんだよ。シスコンじゃねぇか」

呆れたように清春が言う。

「ですね。姉ちゃんは俺を育ててくれた人ですから。なのに、体が悪くなったのに俺も気がつかなかったし。でも、俺は結構悔しいんですよ」

そう言っていたずらっぽく笑う。

こんな表情は姉とそっくりだ。

清春が話の続きを促した。

「俺がこっちに来たら姉ちゃんも来て治療を受けるって言うと思ったから留学決めたのに。結局こっちに来たのは去年の1年があったから、って言うんだから。俺、皆さんに負けたってことじゃないですか」

拗ねたようにいう星太に清春はにっと笑う。

「ザンネンだったなァ〜」

挑発的にいう清春に「ちぇ」と呟く。

あのの弟と言うには素直だな、と何となく思った。


<やあ、星太>

拗ねている星太に声を掛けてくる人物がいた。

むせ返るようなカサブランカの香り。

間違いないと思って星太が振り返ると、やはり隣の暇人次男坊が立っていた。

カサブランカの花束と牛乳瓶。

隣は酪農を営んでいるので、がこちらに居るときには絞りたてのミルクを持ってきてくれる。

そして、なぜか持ってくるのは暇人次男坊の仕事になっているようだ。

は中だね?>

そう言ってキッチンに繋がっている裏口に向かおうとするジャンの腕を慌てて掴んだ。

<牛乳持ってきてくれるのは本当にありがたいけど。今回姉ちゃんが帰ってきたのは友達が遊びに来たからなんだよ。それ、俺が姉ちゃんに渡しておくから。2週間しかないんだし、邪魔しないでくれよ>

目の前で流暢な英語でそう言う星太に清春は少し驚いた。

なんと言うか、さっきまで拗ねていた少年とは別の人間に見える。こちらで1年で生活していたのだから、流暢に話せて当然かもしれないが、それでも、英語を話している彼は年下に見えない。

<何だ。この少年は君の友人ではないのか?小さいし、幼いじゃないか>

清春はカチンときた。

何を言っているのか正直よく分からないが、それでも小馬鹿にされたのは声音で何となく分かった。

「おい、テメェ」

星太の前に立って清春がジャンを見上げる。

ジャンは空気が読めないのか、読む気がないのか、清春の頭を撫でた。

ブチッと何かが切れた音がした。

少なくとも、星太には聞こえた。

拳を振り上げた清春だったが、その拳は誰かの手で止められる。

「まあ、清春。やめとけって」

止めたのは一だ。

<ジャン、とか言ったな>

一の隣には翼が立っている。

そして、周りを見れば瑞希に悟郎までいた。

「シュンは中でちゃんを手伝ってるよ。センセが手伝うって言い出さないようにキッチンに立つ人の人数増やせないようにするって」

悟郎が不在の瞬の居場所を解説した。

目の前で翼がなにやら話している。

「これ、英語じゃねェだろう」

発音が全く違うと思う。

「そだね。何だろう。フランス語かな??」

悟郎が呟くと瑞希はこくりと頷いた。

日本語でもない未知なる言語で話しかけられたジャンは不安そうな表情を浮かべ、結局ミルクと花束を星太に渡して逃げるように去っていった。

「何だ。フランス語はダメだったのか」

しれっという翼に星太は尊敬のまなざしを向ける。

「真壁さんは、フランス語も出来るんですか?」

「Of course。もちろんだ。ああ、それと。俺はFamily nameで呼ばれるのは好きじゃない」

星太は目をぱちくりとした。では、何と呼ぼう。

「『翼』って呼んでいいって。それ以外無理だろう?」

一が言うと星太は頷いた。

「ありがとうございました、翼さん」

翼は軽く手を上げて応え、そのまま家の中へと向かっていった。

「兄ちゃんたちも、ありがとう。あいつしつこいから。人の話聞かないし」

「はは、そんな感じだったな」

笑いながら一は星太の頭を撫でる。

「仙道さんも、ありがとう」

「俺様は..何もしてねェだろうが」

不機嫌に返す清春に星太は首を振る。

「俺、一人だったらあのおっさんにあっさり無視されてただろうし。それに、仙道さんは俺の前に立ってくれたから。何か、あれ。嬉しかったです」

そう言って星太は駆けて行った。

その後姿を呆然と見送った清春だったが、少しして「へっ」と笑みがこぼれた。









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桜風
09.3.27


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