| 悟郎がに向けて言葉を発しているのには玄関が気になってそっちに気を向けている。 すっくと立ち上がったに悟郎は言葉を止めて「ちゃん?」と声をかけた。 「あんのおっさん...」 は何かを呟いたらしいが、よく聞き取れなかったため聞き返そうとしたらは駆け出していた。 悟郎が追いかけて玄関を見るとがふわりと飛ぶ。 そして上半身を捻ってその勢いで足を回した。 の足が誰かの頭にヒットした。 は華麗に着地し、「先生、大丈夫ですか?」と悠里に声をかけていた。 玄関に居た瞬と翼。そして、瑞希が固まった。清春も驚いたようで目を丸くしている。 「え、ええ...あの、さん。この方って、もしかして」 「ああ、大家さんみたいなものです。天文バカですが」 笑顔で答えた。 「..痛い」 「せっかく遊びに来てくださった、たぶん娘の担任にセクハラ働くってどういうつもりですか?」 冷ややかな声でそう言う。 「あ、いや..何と言うか、かわいらしいお嬢さんだったから。の母親にどうかと思って」 しどろもどろに言う父親に冷ややかな視線を向けては悠里の手を引いて玄関を後にした。 「何やってんだよ、父さん」 呆れたように星太が言う。 さっきまで外で一とサッカーをしていたので、今玄関に来たが、何となく様子を察したらしい。一も一緒に戻ってきたが、彼は少し様子が飲み込めていない。 「の技は今日も一段とキレがいいぞ」 「そりゃ、凄いね」 呆れた表情を父に向けて星太はの居るであろうリビングに向かった。 「あー、と。えっと、どういうこと?」 の技が炸裂したその瞬間からしか現場を目撃していなかった悟郎がたぶん一部始終見ていたであろう近くに居た瞬に問う。 「いや、このの父親が戻ってきたらしくてな。ちょうどここを通りかかった先生が挨拶をしたんだ。そしたら、『娘の担任をしてくださってありがとうございます。今度は母親なんてどうですか?私と結婚してみませんかね。こんなかわいらしいお嬢さんが妻になってくださったら毎日貴女の顔を見に帰ってきますよ』と言って。次の瞬間、凄い勢いでが出てきて..あとは風門寺も見ただろう。見事な空中技が披露されたというわけだ」 しかし、以前あの葛城を日誌ではたいたのその行動元を目の前にすると何となく納得した。 納得したが... 「ボクの一世一代の...」 悟郎はタイミングの悪さにそう呟いた。 蹲っていたの父が立ち上がる。 彼はその場に呆然として残っているの友人たちの顔をゆっくりと見渡した。 「君たちが、B6と呼ばれていたの友達かい?」 先ほどまでの表情と打って変わって優しい瞳でそう言う彼に皆は少し躊躇う。 「が、世話になったね。君たちのお陰で、あの子はこっちに来てくれた。生きることを選んでくれた。妻だったあの獣医さんが、一度電話をしてきて、君たちに感謝しろと言ったんだ。言われなくとも、している。ありがとう」 そう言って深々と頭を下げた。 そして、頭を上げて「だが!」と言う。 「娘は嫁にやらんからな!」 そう言って全員に鋭い視線を向けた。 しかし、すぐにニッと笑う。 「...これ、1回言ってみたかったんだよ」 そんなの父親にその場に居た全員が脱力した。 これは、でなくとも疲れるだろう。 「ボクの一世一代の...」 悟郎は諦めきれずにもう一度恨めしそうに呟いた。 「いやぁ、しかし遠路よく来てくれたね。星の良く見えるいい家だからゆっくりしていってくれたまえ」 リビングに戻りながらの父がそう言った。 「夕飯は?」 父の行動を警戒しながら悠里に距離をとるように言ってがそう声をかけてくる。 「そうだな。今日はもらおう。明日は朝から出るから。おそらく10日後に戻るよ」 そう言う父には「了解」と返して水に浸したタオルを投げた。 「冷やしたら?」 「君のすばらしい技のお陰なんだがね、これは」 そう言いながらの蹴りが入ったあたりにタオルを当てて「書斎に居るから。何かあったら声をかけてくれよ」と言ってリビングを後にした。 の父が出て行くと呆然としていたB6たちもリビングに入ってくる。 「ごめんね、変なのが帰ってきて」 が心底済まなさそうに頭を下げる。 「と、いうか。おじさん変わってねぇじゃん」 苦笑しながら一が言う。 「アレでもマシになった方だよ。前は言うと同時に手を出してたみたいだし」 呆れたように星太が言う。 「お店に行く回数もそれなりに減ってるしね」とも付け加えた。 「それって私の医療費がかかるからでしょう?」 「でも、姉ちゃんは一番金のかからない治療選んだし、母さんだった獣医も資金提供してるじゃん」 何となく、この2人の苦労を垣間見た悠里は思わず2人を抱きしめた。 「先生!?」 2人の声が重なる。 「頑張ったのね、2人とも」 そういわれてと星太は顔を見合わせる。 少し沈黙した後に「星太がいましたし」「姉ちゃんがいたし」と声を重ねた。 お互いのことを言った2人は気恥ずかしそうに顔をそらせた。 ふと思い出してはするりと悠里の腕から抜けた。 「ゴロちゃん、さっき何か話の途中だったような気がするんだけど」 が悟郎にそう言うと 「んー、そうだっけ?ボク、覚えてないからたいした事じゃないんだよ」 と笑って答えた。 「ホント?」とが聞くと「ホント、ホント」と頷く。 「じゃあ、思い出したら話してね。聞くから」 そう言っては悟郎から離れる。 遠ざかっていくの背中を見つめて悟郎は深くため息を吐いた。 |
桜風
09.4.10
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