| たちが出て行った後に来客があった。 ベルが鳴って清春が出てみると「オバケ!何でオマエがここに居るんだよ!!」と言って飛び上がった。 その声を聞いて星太が顔を覗かせて同じように驚いた。 パクパクと口を動かした。どう呼んでいいのか分からないといった表情だ。 「こんにちは、星太くん」 微笑んで手を振ったのは2人目の母だった。 「初めまして、星太君」 彼女とそっくりなもう一人が星太の名を呼んで手を振った。 「だ、誰...!?」 傍にいた一の服の袖を引いて聞いてみる。 似ているから何となく想像つくが、それでもやっぱり確認したい。 だって、聞いていた話だと彼女の弟は今の年齢を考えると30代後半のはずだ。 あれ、いやだって...でも... そう思いながら視線を一に向けていた。 「あー、あの人?衣笠先生。オレたちの数学の先生だよ。は去年あの人に世話になってたんだよ」 「えーと、2番目の母さんの..弟さん?あの人2人姉弟って言ってたと思うんだけど」 「家族構成までは、わかんねぇけど。衣笠先生、確かもう40だぜ?」 「37ですよ、草薙君」 いつの間にか目の前に居た衣笠が訂正をいれた。 「はは、衣笠君は若作りだからねー」 そう言ったのは北海道で獣医をしている最初の母親だ。 「星太、大きくなったじゃない〜」 そう言いながら頭をなで繰り回す母親の手を逃れるように距離をとる。 「じいちゃんとばあちゃんは?」 「今、車止めてる」とたちの母が言うと玄関のドアが開いた。 「星太からきいたよ、作戦変更だってね。日程が変わったことには、ちょっと驚いたけどね」 笑いながら祖母がいい、熊のような祖父が続いてリビングに入ってきた。 「さて、手伝おうかね」 そう言いながら祖母がエプロンに手を伸ばしたが、それを阻止したのは母だ。 「あのね、あなたの料理は致命的にまずいんだから。せっかくのお祝いの席に水をさすのはどうかと思うわよ!?」 「はあ?あたしの料理のどこがまずいって?全く味覚オンチだねぇ。それに、アンタには言われたくないよ」 そんな会話が繰り広げられている。 「なあ、あれって止めたほうがいいのか?」 一が聞くが、 「放っておいていいよ。喧嘩ってあの2人の唯一のコミュニケーション手段みたいだから」 と呆れた表情のまま星太は自分の持ち場の飾りを再開した。 <まあまあ。2人とも仲良く揃って壊滅的な料理の腕前じゃないか> そう言って止めたのは祖父だ。その止め方はどうだろう、と星太は苦笑する。 「おじいちゃん、なんて?」 悟郎が問う。 「2人とも料理の腕は壊滅的だろうって。実際、そうなんですけどね」 苦笑しながら星太がいう。 「2人とも!?」 「遺伝だって昔母さんだった人は言ってましたけど...だったら、姉ちゃんは意地でその遺伝子に逆らったことになるなーって俺は思ってるんですけどね。味覚がおかしくなっても不思議じゃないのを食べて育ったのに、結構おいしいものが作れるって凄いなーって。やっぱり、ハジメ兄ちゃんところのおばちゃんに手料理ご馳走になってた経験のお陰だなー」 止め方が悪かったのか、祖父が娘と妻に詰め寄られているが、それを笑ってかわして彼はかばんからエプロンを取り出した。 「あー、星太。アレは何だ?」 「姉ちゃんがシャレでじいちゃんにあげたエプロン。意外とお気に入り。ちなみに、じいちゃんの飯はプロ級だから。ばあちゃんの作るのを口にするくらいなら、って頑張ったらしいよ」 フリルがふんだんに使ってある真っ白なエプロンだ。所謂、メイドエプロン。 「か、かわいい〜!!」 悟郎が甚く感動しているが、彼以外はあの熊のような厳つい男にフリルのメイドエプロンに距離を置きたくなる。 「何を作ろうカ?」 キッチンを取り仕切っている瞬にそう声を掛けた。 「日本語、できたのか?」 祖父は苦笑しながら頷いた。 「ハニー口説き落とすときに頑張ったカラネ。でも、やはりちょっと苦手ダヨ」 「私も手伝うわ」 そう言って声を掛けたのはエプロン装着済みの衣笠の姉だ。 瞬は頷く。 本当にキッチンを手伝ってもらえるメンバーが居なくてどう捌いていこうかと悩んでいたところだったから。 瞬はそれぞれに仕事を振り分けた。 「さて、僕はこちらを手伝いましょうか。先生も、ほら」 そう言って衣笠が星太の手にしている飾りに手を伸ばす。「手伝わせてくださいね」と一応断ってから星太の隣に立った。 「あたしも!」 「どれ、あたしも手伝おうかね」 星太の周りに大人が3人立った。 彼らをぐるりと見て星太は居心地が悪そうに俯く。身内と呼べるであろう大人に囲まれる経験は本当にない。 だから、どんな顔をしたらいいのかわからないのだ。 「...ハジメ兄ちゃんのとことか、手伝いに行けばいいじゃん」 「だってさ、ドクター」 「あんたが行きなよ、アニマルドクター」 またしても2人の口げんかが始まる。 「やれやれ、いけない人たちですね」 星太は驚いて自分が思っていることと似たことを口にした衣笠を見上げた。 衣笠はにこりと微笑んで脚立に上る。 その脚立の脚を星太は支える。 「星太のやつ、何か嬉しそーじゃね?」 清春が呟いた。 「だな。あの家、家族が揃うこと自体本当に珍しかったもんなー」 そう返した一の耳に「ただいまー」と言う声が届き、嬉しそうに口角を上げた。 星太は不思議そうに顔を上げ、獣医と医者は口喧嘩をやめた。 何年ぶりか、元祖家が揃ったこととなった。 |
桜風
09.5.5
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