| ふと、部屋の中を見渡しての姿がないことに気が付いた。 慌ててもう一度部屋の中を見渡す。今度はの姿を探したのではなく、悟郎と瑞希の姿だ。 彼らはちゃんとこの場に居る。 と、いうことははどこに居るんだろう...? 一はの部屋に向かった。 「おーい、?」 部屋をノックしても返事がない。 「開けるぞー」とドアを開けてみたがの姿はなかった。 どうしたのだろうか。部屋を後にしようとドアを閉めようとしたところで、屋根の上で音がした。 にゃんこか! 一はそのままの部屋の中に入り、ベランダに出た。 梯子が掛けてある。 その梯子を上るとそこにはが座っていた。 「あら、いらっしゃい」 彼女は少しだけ驚いた表情を浮かべたものの、軽くそう言う。 「何で主役の一人が居ないんだよ」 苦笑しながらも一はの隣に座った。 「あの光景があまりにも不思議すぎてね」 確かに、と一も同意した。 「でも、おばちゃんすげーな。の欲しいものちゃんと分かったじゃん」 一もそれがとても嬉しかった。 「そうだね」とは睫を伏せる。 「サッカー、始めたぜ」 不意に一が言う。 そういえば、こっちに来て一とゆっくり話してなかった。そんなことを今更思い出しては苦笑した。 「何だよ」 自分の言葉に笑われたのかと思って一は少し不機嫌に言ったが、「違うの」というの言葉に首を傾げる。 「一とゆっくり話すのって久しぶりでしょう?こっちに来てから一ってば星太をずっと気に掛けてくれてたから」 星太が一人にならないように。姉の友人とはいえ、それでも何となく馴染みにくいだろうと思って一が一緒に居てやることが多かった。 「でも、そっか。サッカー始めたのか。宣言どおりね」 「おう。まだでっかい大会とかには出てないけど。うちの学校のサッカー意外と弱いみたいでさ。けど、優勝とか目指してるんだ、オレは」 「やるからにはトップを、ですよねー」 が笑いながら言い、「おう」と一は頷く。 「...は、体が治ったら日本に帰ってくるのか?」 伺うように一が言う。 「そうねー、そのつもり。あっちの文化の方が好きだし。こっちのダイナミックな文化はちょっと合わない気がしてるのよ。ほら、わたしって控えめな性格でしょう?」 の言葉に「なんだよ、『控えめ』って。初耳だぜ」と笑いながら返しつつも一は胸を撫で下ろす。まあ、こちらに残るといわれれば大学卒業した後の進路がグローバルなものになるだけだし。 そんなことを思っていると「そういえば、」とが何かを思い出した。 「何だ?」 「勇ちゃん、元気だよ」と言うに一は目を丸くした。 「え...ちょ、何で知ってんだ?」 「ペンフレンド。というか、こっちのうちの住所調べて手紙くれたのよ。勇ちゃんはわたしが渡米すること知ってたし。私、病院でもパソコン弄ってるけど、基本的にネットに繋いでいないからね。まあ、アナログでやり取りするのも悪くないよねーって」 「いや、待ってくれ。何で勇次がの家の住所知ってるんだ?」 恐ろしい話を聞いた。 サッカー部のことはともかく、彼のせいで自分は瑞希に睨まれたのだ。それについては非常に盛大に文句を言いたい。 「北海道の獣医さんは有名だからね。ネットで検索したら出てきたんじゃないの?一だって、あのひとの居場所はそうやって見つけたって聞いたけど..?で、勇ちゃんが連絡を取ってみたらここの住所を教えてもらえた、とか?」 「...あいつ、今何してんの?」 ポツリと一が聞く。 「受験生。大検受けて大学行くって。まあ、さすがにサッカーからはもう離れたって言ってた。勿体無いけどね」 はそう応えた。 「住所、教えようか?」 「...いや、いいよ。ただ、オレが引っ越してないってのだけあいつに教えて。あいつが会いたくなったら来いよって。歓迎するから、って」 一の言葉を聞いては目を瞑る。そして、空を見上げて「わたしさ」と声を出した。 「ん?」とにつられて空を見上げていた一は言葉を促した。 「一のそういうところ、好きだな」 その言葉に驚いた一は思わずの腕を強く掴んだ。 「今『好き』って言ったか?!」 「草薙さーん、痛いですよー」 抗議するに「悪い」と返して掴んでいた腕を放す。 「で、えーと。ってオレのこと好き..なのか?」 「うん。その懐の広さが好き..というか尊敬してるって言うか。凄いなーって本当に思う」 あれ...?何かこう..やっぱり違うよな?? 首を傾げる一にも首を傾げた。 「どうかした?」 「いや..うん。ま、仕方ないか...」 苦笑しながらそう言う一にはまたしても首を傾げる。 「どうしたの?」 「いーや。何でもない」 そう言いながらやっぱり笑っている一にはちょっと拗ねる。教えてくれたっていいじゃないか。 「なあ、。オレ、のこと好きだよ」 驚いたようには目を丸くした。 「昔はさ、はオレにとって近所の頑張ってる一生懸命な女の子だった。うちの親からもあんたが守ってやりなさいって言われてたから、そうやってきたつもりだ。 けど、今は違う。オレが、オレの意思で、オレの好きな女の子のを守りたいって思ってる。って言ってもまだまだ力及ばずって感じだけどな」 そう言ってニッと笑っている一の顔をはまじまじと見た。 自分にとって彼は『幼馴染』で、それ以上でもそれ以下でもない存在だった。 思考が追いつかない。先に浮かぶ言葉は『怖い』だ。恋だの愛だのは誰かを失うスタート地点だ。 「ゆっくりでいいんだぜ」 ぽん、と一がの頭に手を置く。 「は、ゆっくりでいいんだ。ゆっくり沢山の人とかかわって、色んなものを見たらいいと思う。今までそれが出来ないくらいに忙しかったもんな。その間に、オレもちゃんと成長するから」 「わたし、わかんないよ」 膝を抱え込んでは俯いてそう言う。 「いいって。急ぐことないから。じいちゃんとかばあちゃんに色んなこと教えてもらえよ。おじさんとかおばちゃんみたいなのばっかりじゃないんだから。オレはが好きだけど、はそうじゃないかもしれないってのは、一応覚悟できてるし。そりゃ、勿論オレのこと好きだったらすげー嬉しいけどな。焦んなくていい。怖がらなくていい。どう転んでも、オレはの友達だけは続けるつもりだからさ」 「がんばります」 「気負うこともないって」 苦笑しながら一はそう言っての髪を撫でて立ち上がる。 「先に戻っておくからな」 一はそう言ってベランダに下りてその場を後にした。 「あー、タイミング間違ったか?まあ、いっか」 しまったな、と少しだけ後悔しつつもすっきりしたのでそれはそれで良しと考えてリビングへと向かった。 |
桜風
09.5.22
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