Dear my friends F 8





これをどういう順番で整頓しよう、とは少々途方にくれていた。

元々片付けは苦手ではないが、得意でもない。

以前、衣笠の紹介で借りさせてもらった部屋に比べれば、今借りている部屋は小さい。

だから、荷物もかなり少なめに作ったのだが...

どれから解いていいのやら...

「こんにちは」

玄関を開けっ放しにしていたため、インターホンを押さずに彼が声を掛けてきた。

「あ、いらっしゃい。ごめんなさい、全く片付けてなくて」

ダンボールの隙間を縫って玄関に向かいながらはそう詫びた。

「いえいえ。元々荷解きのお手伝いに参りましたので」

そう言って訪問者である永田は部屋の中に入ってきた。

「少し小さいお部屋を借りられたのですね」

「まあ...贅沢はしないように、と思って」

「なるほど、左様でございますか」

永田は頷き、スーツの上着を脱いだ。

「では、お手伝いしましょう。ああ、下着など私が手に取らないほうがいいものは避けておいてください」

は慌ててそれが入っている箱を探して部屋の隅に置いた。

荷解きを始める。

一応、ダンボールには何が入っているかは書いている。

それを一通り見て永田は手際よく片づけを始めた。


「翼様から聞きました。全く、光栄な役をいただけたようで...」

怒ってるのかなぁとは肩を竦める。

「ごめんなさい」

「いえいえ、私は一向に構いません。むしろ、先ほども言いましたが光栄です。しかし、自分の経歴に傷をつけるのは如何かと思いますよ?」

は首を傾げた。どこら辺が経歴に傷をつけたことになるのだろう...?

「私のように悪い大人と恋人だったなどと言う設定はいかがかと思いますよ...」

呆れた口調でそういわれた。

しかし、にとって見れば永田は悪い大人ではないと思う。

の考えていたことが分かった様子の永田は深く溜息を吐いた。

やはり、彼女はまだ『恋愛ごと』には疎いのだろう。本や映画などから得た知識は結局知識であって経験ではない。

恋愛とは面倒くさかったり辛かったり。案外そういうことの方が多いのだ。彼女はまだそういうものを経験していないから...

そういう部分で考えたら彼女はまだ子供なのだろうな、と何となく余計なお世話だといわれかねないことも思ってしまう。

「永田さん?」

怪訝そうにが名を呼ぶ。

「いえいえ。何でもございません。それで、作戦会議はどうします?」

「あ、ちょっと待ってください」

そう言っては立ち上がり玄関を閉めた。

「そうそう。物騒ですから玄関は開け放ってはいけませんよ。このマンションはホールがオートロックではないのですから」

この部屋のドアが開け放たれている様子はマンション前の道路からも見えた。

エレベータを待つ時間が惜しくて慌てて階段で上がってきたほどだ。

「はーい」とが返事をする。

いい返事だが、この返事ではまた同じことをするだろうな、と永田は小さく溜息を吐く。

「で、さっきの。作戦会議ですが...」

がそう切り出して計画を話す。

衣笠に聞いたときからずっと練っていた。

永田は彼女の話を感心しながら聞いていた。元々、高校に居たときから頭の回転は速かったし、卒業後も翼がアメリカに行くことがあれば、時間を作っての見舞いに行ったりしていたから彼女と話す機会も多かったこともあり、彼女が賢いことは理解しているつもりだった。

しかし、今回のことは結構『大それたこと』に分類されるだろう。

それなのに、考えに全く迷いや矛盾などが見られない。『作戦』としている今回のことを冷静に分析して判断している。さすが、実は理系が得意な作家と言ったところか?

「で、どうでしょう?」

「ええ、そうですね。概ねそれで良いとは思いますが...」

そう言い置いて永田が修正案を出す。

「なるほど...まあ、こちらの手持ちのカードは先ほどお話したので全部ですよ。上手く切れるかどうかはやってみないとわかりませんけど」

の言葉に永田は頷く。

それでも、それだけカードが手元にあるのは凄い。

「では、そろそろ別れ話でもしますか?」

永田がからかうようにそう言った。

荷解きは殆ど終わっている。

たぶん、一人でも片付くだろう。

は永田の言葉に少し拗ねた表情をした。

「それはそれで面白くないですね」

「ご自分が言い出したんですよ?」

「...そうでした」

諦めたようには肩を竦めて天井を仰ぐ。

なんだかんだで永田は頼れる大人のひとりだったのになぁ、と。

ま、仕方ない。

「じゃ、お別れですね」

さらりと言ったに永田は頷く。

「では、最後のアドバイスとなりますかね。クマには、ご注意ください」

「...クマ?」

が首を傾げて気になった永田の口にした単語を口にする。

永田は頷いてハンガーにかけていたスーツの上着を手にした。

「では、これで。体に気をつけるんですよ..

悪戯心で名前で呼んでみた。

は驚いたように眉を上げて少し固まっていたが

「はい。ありがとうございました...永田さん」

ちょっと頑張ってみたけど『智也さん』とは言えなかった。

「残念」と肩を竦めて永田は笑い、そのまま部屋を後にした。


さてさて、学園にはいつ行こうかしら?

残った荷解きと片づけをしながらは自身の作戦を詰めていた。









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桜風
09.7.17


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