Dear my friends F 9





「あの、昨日はどうもありがとうございました」

職員室でこっそりと真奈美に声を掛けられた。

一は苦笑して軽く手を上げる。

本当に全員分自分の財布から出て行った。

まあ、全員がこうやって集まることがこの先どれくらいあるか分からないし、たまになら良いだろう。

最初言いだしっぺだったが「半分持とうか?」と聞いてきたときには相変わらずだな、と苦笑してしまった。

「でもでも。昨日は本当に感動でした」

「まあ、旨かったしなー」

翼が勧める店だから不味いはずはないが、と思っていると「勿論美味しかったですけど、先生..じゃなかった...さんのお話です」と訂正された。

ああ、そっちかとやはり苦笑がもれる。



店は個室を用意してもらっていた。

そこでなら彼らも自由に騒げる。何せ、B6は全員が世界的に有名な日本人なのだから。

特に、一と瞬と清春はテレビなどのメディアへの露出が高い。お陰で中々羽目を外せないのだ。

そう言うことも配慮できるようになったのか、と思ったがたぶん永田に連絡をして永田から店に予約などをしたのだろう。

そうに決まっている。

そして、結局瞬も頑張ってこの飲み会に参加した。

「そういえば、さんは何をなさっているんですか?」

真奈美が素朴な疑問を口にした。

は「もの書きさん」と応えたが、何故か翼が誇らしげに本について語りだす。

すると「ええーーーーー!!」と真奈美が仰け反った。決して比ゆ表現ではなく、仰け反ったのだ。

さんが、あの有名な...!」

そう言って暫くうち震えていた。

はどう反応して良いのか分からず、正直困惑していた。

あの作家がだというのは世界中の殆どの人間が知らない。

彼女はメディアへの露出を避けているし、インタビューも直接受けるのではなく、出版社に質問事項を送ってもらって、それに応えるという形式を取っているのだ。

第一、突っ込んで聞かれたらどう答えて良いかわからないじゃないか。

「取り敢えず、何となく書き始めました」とか言うと夢がないと怒られそうだし...

なので、彼女を知るものは本当に少ない。

沢山の世界中のファンから手紙を貰っているし、自分の作品を愛してくれている人の存在を知ってる。

正直、一方通行な感じがして申し訳ないと思うが、静かに暮らしたいというのもあるのだ。

「ほ、本当に...?」

確認された。

は仕方なく躊躇いがちに頷いた。

「私、大ファンなんです!」

そう一言言ってからの真奈美は凄かった。

どの巻のどのシーンのどんな表現が好きだとか、正直、そこまで覚えられていると作者冥利に尽きるを通り越してしまっているのだが...とが思うくらい作品を愛してくれている。

「あ、でも。取材で聖帝にいらっしゃったんですよね?」

「んー、まあ。そうだけど...」

「じゃあ、今のシリーズは当分お預けですか?」

しゅんとなってそう言う。

「......子犬」

瑞希が呟いた。

ああ、そう。そんな感じ。

「ううん。あのシリーズを止めないかわりに別の作品の取材をして良いって話になってるから」

の言葉に彼女の表情がぱっと輝いた。

「本当ですか!?」

はコクリと頷く。

「嬉しい...!」

自分に向けられるそんな感情には少し困惑していた。

「もしかして、ちゃんは誰かの口から直接作品を『好き』って言ってもらうのは初めて?」

「身内とか、そう言うのからしか...わたし、あまり第三者の前に出ないし」

が言うと悟郎は笑った。

「嬉しいものでしょ?」

「びっくりしたけど...うん」

口元に笑みを浮かべては頷いた。

「あ、でも北森先生」

「はい?」

が憧れの作家だということを知って真奈美は有頂天だった。

「わたしがあの作家だということは誰にも言っちゃダメよ?あと、『先生』ってつけるのもNGね」

「...なんでですか?」

首を傾げて聞いた。

「何でも。と、いうか。学園にわたしのファンが居てくれたとして、ありのままの学園の姿を見ることが出来なくなりそうだから..って言ったら納得してくれるかしら?」

の言葉に真奈美は頷いた。

「分かりました」

「よろしい!」

えらそうにが言うと「えらそうだな」と瞬が苦笑しながら茶々を入れた。

「良いじゃない、たまには」

笑いながら言うに「いっつもだろォが、お前はよ!」と清春が言った。

「そんなことないもーん」

可愛く言ってみたに皆は苦笑した。


そして皆は飲んで騒いで、楽しんだ。

日付が変わるころに解散となったが、皆の視線は一箇所に集まっている。

真奈美が酔いつぶれていた。

皆結構いける口だから彼女の存在を忘れてそのまま放っておいた。もそこまで気を回せずに居た。何せ、気をよくした清春が何かしでかしそうでハラハラしていたのだ。

「んで、このケチャ。どォすんだ?」

「わたしが送ってく。誘った責任もあるし」

「けど、は新任の家を知らないだろう」

うん、知らない...

会ったばかりの人間に住所とか住まいとか聞くはずがないだろう。

「どうしようか...うちにつれて帰っても良いけど、学校から遠いしね」

「ああ、それならゴロちゃんが知ってるよ。センセちゃんの家。それに、既に寝入ってる人を担いでちゃんに帰れって言えないよ」

そう言って悟郎が軽々と真奈美を抱えあげた。

何とも微妙なえづらだ。

「じゃ、ボクたち先に帰るね。バァイ!」

悟郎がそう言って部屋を出るようにを促したため、は慌てて真奈美のバッグと自分のバッグを持って悟郎の後を追った。

タクシーを拾って、真奈美を家に送り届けた。

彼女は熟睡していたので彼女の鞄から鍵を取り出して取り敢えずベッドに寝かした。スーツが皺になるが、さすがに着替えさせてやるだけの体力とか気力はない。

「ま、連れて帰ってあげたんだからそれでいいんじゃない?」

悟郎はそう言ってに帰ろうと声を掛ける。

「そう..だね」と言っては真奈美の家の鍵をかけてドアポストにそれを落としておいた。

「もうちょっと早い時間だったらちゃんと夜のデートをしたのにねー」

悟郎が笑いながらそう言った。

「体、大丈夫?」

不意に真剣な瞳を向けて悟郎が問う。心から心配してくれているのが良く分かる。

「日本に帰国しても良い程度には。こっちのいい病院紹介してもらってるし。でも、やっぱり年に2回くらいは様子を見せろっておばあちゃんが。まあ、おばあちゃん孝行しに帰ると思ったら結構気が楽だよ」

「良かった」と悟郎は微笑んだ。

「そういえば、もうすぐGWだけど、予定はあるの?」

「...北海道の獣医さんが遊びに来いってうるさいから行くことにしてる」

の答えに悟郎は嬉しそうに笑う。

「そっか。ハジメがポペラ羨ましがるね!」

「帰って自慢しまくらないとね!」

も笑ってそう応えた。









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桜風
09.7.17


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