Dear my friends F 21





バトンを受け取ったのは慧よりも一の方が先だった。ほんの少し遅れて慧にバトンが渡る。

は一を応援しながらも那智が手を抜いたからくりが知りたくて、走り終えたばかりの清春に寄った。

「何で方丈弟君は手を抜いて走ったの?」

「は?あれがアイツの実力だろ?」

しれっという清春をじっと見ていると、清春は諦めたように溜息をついた。

「まあ、バトン受け取る前にちょォーっとお話したんだヨ」

内容としては、大人気ないというかスポーツマンシップはどこにあるんだ、と聞きたくなるようなものだった。


バトンを受け取るのは那智の方が先なのは疑う余地がない。

だから、一計を案じたという。

「おい」

「何ですか?手を抜いてほしいとかですか?うわぁ、NBAのスーパープレイヤーにそんなお願いされたら聞かないわけにはいきませんよねぇ〜」

那智が笑いながらそう言った。

「ちげーよ。っつうか、オメェの次は兄貴なのな?」

清春の言葉に那智は少し機嫌を損ねる。

「じゃんけんで決めたからね。A4は身の程知らずばかりで困ったよ。花形のアンカーは兄さんしかいないのに」

「けどよ。もう決まったモンは仕方ねぇよな?」

「...で?」

清春が何を言いたいのか少し分からない。

「このままオメェがぶっちぎって走って兄貴にバトンを渡して兄貴がそのまま走っても兄貴がスターにはならないよナァ?」

那智の眉間に皺がよる。

「最終走者は無理。だったら、逆転したほうが目立って良いンじゃねぇの?相手は、あのイタリアのリーグで活躍中のクサナァギハッジーメだし?目立つし評価はぐんと上がるよなぁ?兄貴が逆転した後あの成宮が走って先にゴールしてもそれは結局お前の兄貴のお陰ってコトだろう?」

「...つまり、おれに手を抜けって言ってる?」

「サァな。それは、お前が決めることだ。ま、全力を出してもオレッ様がオメェを抜いてしまうしなァ〜」


「...きったねー」

はぼそりと呟いた。

那智がお兄ちゃん至上主義なのは少し会話しただけで何となく分かった。

だから、その性質を利用したのだ。

「何のコトだァ?アイツが勝手に手を抜いて走ったんだろォが」

しかし、那智も世渡り上手と言うか。どうやらこのリレーが始まる前に肉離れを起こしたという設定をしれっと付け加えているようだ。

お陰でいつもの走りが出来なかったといっている。何より、相手はあのNBAのスーパースターだ、と。

「したたかだねぇ」

呆れたような、感心したような口調では呟いた。

、クマちゃんは!?」

どうやらバトンを翼に渡し終えた一が戻ってきた。

あ、やばい。殆ど応援してなかった...

そんなことを思いながら翼を見る。

結局、慧は一を抜かせなかったらしい。

「クマちゃんは一がかっこよくて恥ずかしくて帰っちゃったよ。あ、校内で見かけてもむやみやたらとハグしちゃだめだからね」

「ええー!オレ頑張ったのに!あのクマちゃんのために頑張ったのにー!!」

駄々をこねる一を無視してそのまま翼を応援する。

どうやらあの成宮天十郎と言う少年は頭はアレだが、運動神経はハンパなくいいらしい。

ジリジリと翼との距離を縮める。

「逃げ切れると思う?」

「ちょい、苦しいかもなァ」

少し悔しそうに清春が呟いた。

「いーや。翼は絶対に落とせないときには落とさない」

...『沽券』をお約束のように言い間違えることはあるけど。

心の中で余計なことに突っ込みを入れ、は声を張って翼を応援する。

ああ、こんなのどれくらいぶりだろう。

この聖帝に通っていたときも、少なくとも体育祭の時期なんて『未来』をどうでもいいものと思っていた。

一応、義務としてクラスメイトを応援し、笑っておしゃべりもしていたが、こんな風に心から何かを楽しんだことは結局今までどれくらいあったのだろうか。

心の底からは応援する。

普段こんなに騒ぐ姿を皆に見せていないので、瞬たちは少し驚いていたようだが、それでも幼い頃の彼女を知っている一は嬉しそうにその姿を見守っていた。

そして、先にゴールテープを切ったのは翼だった。

「きゃー!!」とはたまたま傍にいた瞬に抱きついて喜ぶ。

まさか、がこのような喜び方をするとは思わず、瞬は逃げそびれた。

何だか、悟郎と瑞希の視線が痛い。

待て、俺は悪くない!!

そう主張したいが、それも出来ない状況でひたすら困った。

「やったなー!」

ふらふらと戻ってきた翼に一が声を掛ける。

「翼ー!」

瞬から離れては翼に抱きついた。

開放されてほっとする瞬とは対照的にあまりにも普段のから想像できないこの行動に翼は固まる。

「凄いよ、翼!わたし、翼と友達6年やってるけど、今日初めてほんのちょっとだけ翼のことをカッコいいって思った!!」

「Wait。待て。6年間で初めて?しかも、ほんのちょっと、だと?」

「今の聞きとがめなかったらもうちょっと株が上がったというのに...」

がいう。

...」

瑞希が腕を広げて名を呼ぶ。

「瑞希ー!」

はそのまま瑞希に抱きつく。相当テンションが高くなっている。

「沢山走ったけど、大丈夫?」

「......うん」

ちゃん!」

これは乗らなきゃ損だ!

悟郎も腕を広げた。

瑞希がを離さないように腕に力を込めようとしたが、その寸前にするりとは腕から抜けていく。

つきんと瑞希の胸が痛んだ。目の前にいるのに中々届かない存在なのは相変わらずなんだな...

悟郎と勝利を喜び、ついでに腕を広げて待っていた一にも抱きついた。

〜!」

そう言って腕を広げて待っていたのは清春だ。

そちらへ足を向けてその腕に収まる前に足を止めた。

「っふ〜...危ない危ない」

そのまま後ろ歩きで清春から距離をとる。

「ンだよ!くっそー、トラップ持って待っていてやってたのに!!」

「いやいや。動物としての危険回避の本能がね」

笑いながらがそう返した。

こうして、の『清春の悪戯回避記録』が伸びていく。

「シュン...ちゃんに弟子入りしたら?」

瞬は悟郎の言葉に思わず本気で頷きそうになったが、寸でのところでそれをこらえる。

一応、自分だって培ってきた何かくらいは持っているはずだ。









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桜風
09.8.14


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