| 1学期の期末テストが終了した週、聖帝学園の全校生徒は講堂へと向かう。 今日はNASAの職員が態々この学園で講義をしてくれるということになっている。 NASAの職員と言っても瑞希ではない。 「可愛らしいおでこのお嬢さん、どうですか。よろしければこの後食事でモッ...!」 「北森先生。大丈夫ですか?このヘンタイに触られませんでしたか?触られたら即消毒してくださいよ!!」 「え..ええ...大丈夫です」 「...おっさん。もうさ、それやめたほうが良いと思うんだけど?もう年なんだし。姉ちゃんは手を抜く気ないんだから、自分の身は自分で守るべきだろう。俺、絶対に姉ちゃんの味方だかんな」 真奈美を含む、とその父親とのやり取りを見たことのない人物は唖然とした。 あのNASAの職員にジャンピングニーをお見舞いしている部外者。許可証があるにしても、胡散臭いと思っている存在がさらに胡散臭くなる。 「この学校でふざけたことしないでいただけますか?」 がずいと迫ってそう言った。 「んー、相変わらずキレが素晴らしい!」 会話になっていない。 「あ、あの...」 躊躇いがちに真奈美は傍に立っている瑞希に声を掛けた。彼もNASA職員だからこの講師に呼ばれた人物の事を知っているだろう。 「の、お父さん...でも、見てのとおり」 「は..はぁ...」 あいまいに頷く以外の選択肢はない。 「さん」とたしなめたのは養護教諭の上條だった。 「あ、」とやっと周囲の視線に気づき、は小さくなって「すみません」と謝る。 「はは、さんが怒られた〜」 愉快そうにいう父親の足を思い切り踏んづける。 声にならない悲鳴を上げる父の姿に溜飲を下げた。 「てか、星太は何で来たの?」 「えー、いいじゃん。こっちも夏休みだし。こっちの友達と久しぶりに遊ぼうって思ってるんだから」 こそこそと会話をする姉弟は相変わらず仲が良さそうだ。 「ウチ、泊めらんないよ?狭いし」 「あー、大丈夫。一兄ちゃんと話、つけてるから」 ちゃっかり者め、と思いながらも「滞在費は?」と聞く。 「今日の講義の手伝いをしたら全額負担するって言ってくれたからなー」 どうやってそう言わせたのだろうか... この子も意外としたたかなのだ。 下の子は皆そういうものなのだろうか...瑞希も意外としたたかなところがあるし。 「しかし、この学校。無駄に広いよね」 「昔はここまで面倒くさい造りじゃなかったんだけどね」 講義まで少し時間があるから、とに校内を案内してほしいと星太が言い、父は大人しく職員室にいるからというから仕方なく面倒を見ることにした。 「星太はいつまでこっちに居るの?」 「8月いっぱい」 「新学期、9月からでしょう?」 が驚いて言うと「んー、まあ」と奥歯にものが挟まったような煮え切らない言い方をする。 「受験、どうだった?」 「うん、まあ...」 「適当に、を目標にするなら、日本のにしたら?入るのはともかく、出るのは楽みたいだし」 「高校までのカリキュラムが違うから、こっちのを受けようと思ったら高校また入らないといけないかもだし。そうじゃなくても大検受けてからになると1年ロスすることになるかもだし。それは面倒。一応受かったよ。両親と祖父母が理系だったお陰で脳みその構造はそっちだったみたいだし...」 そう言って姉の表情を伺った。彼女はそれがイヤで学部も文系ど真ん中にしたし、職業も文系だ。 「やりたいことがあるなら、そっちにすれば良いじゃん?もう選んだんだし。わたしは、それがイヤだっただけで、星太はそれがしたいんでしょ?だったらわたしの顔色伺いする必要はないと思いますけど?」 そう言ってデコピンする。 「ってー!」とおでこを抑えながら恨めしげに姉を見下ろす。 としては弟に見下ろされるこの感覚は好きではない。 「みーおーろーすーなー」 そう言って跳ねて弟の頭を抑えるが、弟の体格はそこそこ良いのでただが乗っかっただけになる。 「あっれー?さん。どうしたんですか、その人。彼氏ですか?」 生徒会の庶務の川久保が声を掛けてきた。 「ああ、ボンバー君」 「生徒会の子」とが紹介すると「どうも」と星太は軽く会釈をする。 「で、どうなんスか?」 興味津々に川久保が迫るが、物凄くさわやかな笑顔で「こんな面倒くさい人、俺はパスですね」と星太が言った。 は弟を軽く睨み、川久保に対しては笑顔を向ける。 「ご期待に添えなくて申し訳ないけど、弟。ほら、今日NASAの人が来て講義するでしょう?その助手と言うか、雑務要員として遊びに来ただけなの」 「えー!その若さで助手ですか?!」 アレを父親と言いたくないは何か良い言い方がないかと悩んでいたが、 「まあ、俺も理系の研究者方面に進みたいって思っているので、知らない人でもないし連れてきてもらったんです」 と助け舟を出してもらえて、血縁関係までは口にせずに済んだ。 講義が終わった後、校内を歩く講師は通りすがりの女子生徒に声を掛け、ナンパを始め、超ダッシュで迫った娘が何故か持っていたハリセンのフルスイングを食らう羽目に陥る。 「...チィちゃん、何で貸しちゃったの?」 彼女のその所業を目撃したアラタがハリセンの持ち主の千聖に聞いてみた。 「いや、何か。勢いに押されて、だな...」 何故自分がハリセンを持っていることを知っていたのかが謎だが、先日の体育祭でB6側のリレーの第3走者を努めた彼女に物凄い勢いで「ハリセン貸して!」と言われた千聖思わず差し出してしまった。 それを「ありがとう」と受け取ったや否や、ダッシュをしてそれをフルスイングしたのだ。 流れるような無駄のない動きだ。キレもある。 いつか仙道が言った『ジャンピングニー』もあながち嘘ではない気がしてきた。 「サンは、怒らせないようにしよう...」 ポツリと呟くアラタに、「それが良いだろうな」と千聖は同意した。 |
桜風
09.8.28
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