| 渡米してその足で病院へと向かう。 予約は日本に帰る前にしているので手続きをする必要はなく、いつもどおりの検査を受けて診察室に入った。 <お帰り、。自宅に帰るのかい?> 診察を終えてカルテを書きながら祖母が聞く。 <まだ悩み中。星太が今日本にいるから、あの家誰も居ないし> <天文学者は?> <確か、今大きなプロジェクトの真っ最中だったと思う。きっと帰ってないよ> <じゃあ、ウチに泊まりなよ。あの人も喜ぶ。渡したいものもあるしね> 『渡したいもの』が何か分かったは頷いた。 <よし、もう良いよ。また半年後には帰っておいでよ。あっちの病院はどうだい?> <お祖母ちゃんのお弟子さんは、わたしの診察に何だかビクビクして物凄く慎重だよ> 笑いながらが言うと<それは何より>と祖母も笑った。 <じゃあ、お祖父ちゃんに会ってくるね> はそう言って診察室を後にした。 長い間入院していたから院内のスタッフともある程度顔見知りでを見かけて声を掛けてくるものの少なくない。 <!> 予約を入れているから今日来るのは知っていたし、時間も確認していた。 が、やはり顔を見るとテンションが上がってしまう。 祖父は大きな体でをガシリと抱きしめる。 <お帰り、> <ただいま、お祖父ちゃん> 頬を摺り寄せてくる祖父に苦笑しながら挨拶を交わす。髭が痛い... <今日はうちに泊まるだろう?ディナーは腕によりをかけて作るからね> 腕まくりをして力こぶを作りながら言う祖父に苦笑しながら<楽しみ!>と返す。 祖父母が何時ごろに家に帰っているのかを確認して、荷物を預けては街に出た。 さすがに、ここまで監視の目が着いて来ていることはないだろう。 日本での生活では、どこかしらに監視の目があった。 祖父母には何度か『手紙』を出している。メールでは味気ないから、と日本の古典的な文様のあしらわれている渋い便箋をよく使った。 きっとその『手紙』の返事や何やらを今晩もらえるのだろう。 こちらでの自分の生活はもう決めている。 1年間留守にするのに、あまり連絡を取っていないらしいNASA。 先日父が日本に来たときに瑞希に何かを言っていたが、瑞希はどこ吹く風だった。 まあ、そこらへんを含めて真壁財閥がうんたらかんたらって手を回しているのだろうが、気になるからちょっとお節介を焼く。 怒られたら、謝る。 あと、顎で使われてる感がイヤだなー、と思ったけど清春にチームの事務所に顔を出してくれと頼まれた。 一応連絡が来ているが、その耳で聞いて帰れとか何とか。 「面倒くさい」と断ってみたが「先日パソコンを直してやったのは誰だ」と返された。 一応、お礼に食事を作ったというのに、普段食べている食事の方が豪勢だと言い返されてとしては面白くないが、まあ、いつも行くようなところでもないしたまには良いかと承諾した。 取り敢えず、ここから一番近い清春のチームの事務所へ行ってさっさと用事を済ませることにした。 清春の代理で来たと言ったら、チームではちょっとした騒ぎとなった。 『あの』という言葉がつく清春の使いとして女の子がやってきたのだ。これは事件だ。 ああ、だから面倒くさいと思ったのに... そう思いながら手続きとかあると言われては清春に電話をして聞いて代理人として手続きも済ませた。 益々怪しがられるが、日本に帰ってしまえば別にどうってコトない。むしろ、戻ってきた清春が面倒くさいだけだ。ちょっとザマミロと思ってしまった。 移動に結構時間がかかったため、結局行って帰るだけとなった。 祖父母の家に着くと窓に電気が点いている。 何だか、こういうのって自分にとっては珍しい... <ただ..いま> ためらいがちに声を掛けた。 <おかえり。今日はどこに行っていたんだい?> 笑顔で出迎えてくれた祖母に清春のチームでの出来事を話す。 <ああ、あのボーヤかい。中々良いプレイするから人気のプレイヤーだよ> <お祖母ちゃん、よくNBA見るの?> が聞くと<熱狂的ではないが、それなりにね>と肩を竦めながら祖母が言う。 意外だった。 <それに、の友人がプレイヤーなら応援しなきゃ、だろう?> ウィンクをしてそう付け加えた。 <の友人といえば>と祖父が話しに入る。 どうやら夕飯が出来たようで、声を掛けにきたようだ。 <ハジメ・クサナギが居るだろう?> は頷く。 <今日、試合があるはずだよ> そう言ってテレビを点けてチャンネルを合わせる。 衛星中継でイタリアのリーグ戦が放送されていた。 MFのポジションに一が居た。 試合のたびにイタリアに飛んでいると聞いていたが、本当だったのだ... <凄いねぇ...> <は、もしかして初めて見るのかい?> コクリと頷く。 <いいプレイヤーだよ。あたしはサッカーの方が好きだからね。ハジメの方をよく見るね。旦那は、NBAだけどね> <キヨハルは良いプレイヤーだ。トリックスターだよ。敵にしたくないだろうね> 「...凄いなぁ」 ポツリとは呟いた。 祖父と祖母は顔を見合わせる。 <だって凄いだろう?今度映画化するって聞いたよ> 目を丸くして祖母が言った。 <実感湧かない。何だろうね、この焦燥感> 清春や一は勿論、悟郎も、瞬も、瑞希も翼も。それぞれが第一線で活躍している。 「トナリの花は赤イ」 不意に日本語でそういわれては驚いて祖父を見る。 <違ったかな?> おどけた様子で祖父が聞く。 <ううん。きっとそうなんだよね> 画面の向こうに映る一は、学校で見るあのちょっと抜けた感じや『B6のおかん』という雰囲気は感じさせない。 一流のプレイヤーだ。 ―――すきだよ。 毎年言われる言葉が頭に響く。 何だか切なくなって、泣きそうになった。 |
桜風
09.9.4
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