Dear my friends F 54





はデッキに出た。

豪華客船での聖帝祭。なぜか船も出港していた。

係留したままだろうと思っていたのになぁ...



声をかけられて振り返る。

そこには、一が居た。

「それ、似合ってるじゃん」

グラスを持った一は近づき、にひとつ渡した。

「ありがとう」と受け取り、口をつける。

「酒はなかった」

「そりゃ、生徒の生徒によるパーティーでしょう?普通ないって」

は笑って応える。

空を見上げるとチラチラと雪が舞い降りてきた。

「ホワイトクリスマスになるんじゃない?」

手のひらを上にして雪を受け止めながらが呟いた。

「かもな」と一も空を見上げる。

「オレらのときの聖帝祭も..雪、降ってなかったか?」

「降ったね。すごい、覚えてたの?」

が目を丸くして聞き返すと、一は肩を竦めた。

「なーんとなく、だけどな。覚えてる。それより、寒くないか?」

そういいながら一はタキシードの上着を脱いだ。

ドレス姿のは肩が出ていて寒そうだ。

一から上着を受け取って少し躊躇いながらもその上着を肩にかけた。

「おっきい」

「まあな。オレからしたら、はちっさいよ」

「一は、寒くないの?」

が聞くと一は「鍛え方が違うって」と笑う。


会場から音楽がもれてくる。

「一曲、踊っていただけませんか?」

恭しく方膝をついて一が言う。

差し出した一の手にはそっと自分の手を重ねた。

一は少し驚いたように顔を上げる。

「断る理由がないよ」

苦笑してが返し、一は笑った。

一に上着を返すと一はその上着を傍にあるデッキの椅子にかけた。

「そういえば、飛行機のチケット買わないとね」

が言う。

一のリードも良いが、のステップワークも素晴らしい。

「ああ、オーストラリアのか?これで来いって親が送ってきてるぜ」

「早く言ってよね!危うく無駄足を踏むところだったじゃない」

「わりぃわりぃ。連絡はあまり取らない様にしてるから」

なぜかは言わない。

それはGTRやクマを警戒してか、それとも別のところに理由があるのか...

「勇ちゃんともね、踊ったことあるよ」

が言う。

「勇次と?いつ??」

「聖帝祭。外に出てたときに。一は、覚えてない?」

に言われて一は過去の記憶という物凄く細い糸を頑張って手繰り寄せる。

「あー...あったな。オレが迎えにいたっときのだろう?」

「すごい。覚えてる!」

心底感心したようにが呟いた。

そのの言葉を表情に一は苦笑する。

「...那智君にね」

不意にが話を変える。

「ん?『那智』って方丈弟、だよな?」

は頷き、「那智君に、この間キスされた」といった。

「あのガキ、シメる」

一が真顔になって会場に足を向けたからは慌てて引き止める。

「待って、待つ!最後まで話しを聞く!!」

渋々一は足を止めた。

「まあ、那智君の神経を逆撫でることをわたしが言ったの。そしたら、黙らせたかったらしく、事故的なアレで...」

の言葉に一は不機嫌なままだ。

って意外と隙が多いからな」

「そうかな?」

「男を男と意識しないからなんだろうけど...」

ブツブツと気に入らないと呟いている。

「けど、自分だって同じことしたでしょう?」とに指摘されて黙った。

「何で男の子ってこう..実力行使的な行動に出るんだろうね」

こうなっては自分のほうは分が悪い。

一はそっぽを向いた。

「けどさ。那智君のあれ、結構イヤだった。前のは、そう思わなかったけど...驚いたからそんな感情をはさむ暇もなかったのかな?那智君はシチュエーション的に2回目だし、順応していたって言うか...」

「オレ、さ」と一が話す。

「ん?」とが話を促した。

「オレ、昔はそれほど独占欲とか、嫉妬心とかあまりないほうだと思ったんだけど...」

そうだな、うん。そういう雰囲気なかったなぁ...

は納得して一の言葉の続きを待ってみた。

「けど、最近は..なんかこう...モヤモヤするって言うか。ちょっと気に入らないって言うか...」

そう言って覗うようにを見た。

今日着ているドレスの送り主だって正直気に入らない。

そういうことに頓着しないも時々苛立たしく思うというか...

勿論、彼女が誰を選んでも恨みっこなしと自分で決めているが、それでもやはり面白くないとは思うと思う。少なくとも、気持ちを整理する期間とかが必要になるだろう。



一に呼ばれては改めて顔を上げた。

少し体を屈めて額に唇を落とす。

それは「好きだよ」の代わりだ。言葉で伝えたら彼女はきっとまた困って自己嫌悪に陥る。

あんなに苦しそうなはできれば見たくない。

しかし、意外なことに、目の前のは赤くなっている。

「どうした?寒いか?」

寒いとほっぺが赤くなる。その類だと思った。

「う、うん。ちょっと寒い。冷やしてくる!!」

はするりと一から離れて船首に向かって駆けていった。

「寒いなら、暖めないとダメだろう...」

一は不思議そうに呟いての背中を見送った。

「追いかけてくるな」と背中が言っているようだから追いかけるのだけはやめた。










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桜風
09.10.30


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