| 壇上では佐伯による那智への口頭試問が行われている。 は先ほどから落ち着かなかった。 正直、ここで那智を引き合いに出したのは時間稼ぎのためだ。 「翼、永田さんは?」 「まだ連絡がない。くそっ何をやってるんだ!!」 あの永田にしては珍しい。 どんなときでも、必ず時間に間に合って戻ってきていたし、翼を待たせることなんてまずないのに... 「、永田さんは誰を連れてくるんだ?」 今、永田はとある人物を迎えに行っている。 今回、彼が出てこなければ収拾をつけるのが難しいとは思っている。 「理事の一人。アメリカ在住で、偶然理事になられた人。理事に就任したは良いけど、一度も理事会に顔を出したことないんだって」 なんだってそんな人を頼るのか... 一は少し呆れた面持ちでその理由を聞こうとした。 「ちゃん、お待たせ」 不意に聞こえた声に振り返り、思わず叫びそうになった。 そこに居たのは、高校時代一度は友情を別った相手だが、その後仲直りして再び親友となり、今ではメールのやり取りを頻繁に行っている人物だった。 「勇次!?」 「ああ、一もいたのか。久しぶりだな」 「な..なんで勇次が!!!???」 「遅い!わたしを待たせるなんて...!!」 は腰に手を当ててそう言った。 しかし、彼女は安堵したのか優しく目を細めている。 「ごめんごめん。ちょっと気流が荒れててなかなか成田に着陸できなかったんだよ」 「申し訳ございません、翼様」 少し向こうではお怒りになっている翼に頭を下げている永田の姿がある。 「さん、これを」 そう言って永田が近づき、書類を渡してきた。 「ありがとうございます!と、言うわけで。後はヨロシク」 は永田から受け取った書類を勇次に渡した。 それを受け取った勇次は頷き、すっと表情を引き締めた。 壇上では理事長の出す問題を悉く正解している那智の姿があり、理事長もとうとう口を閉じた。 「君の、停学を今もって解除する」 口惜しげにそう宣言した。 わっと声が上がったのはクラスAからではなく、クラスZからだ。 「やったねー、ホジョおと!」 「まあ、良かったんじゃないの?ンフっ」 「お前、ホントに頭良いんだな!」 「性格は、もの凄く悪いが...」 「那智!...さんに感謝しろよ」 ステージから降りた那智をそう言って彼らは迎え入れる。 気恥ずかしそうに那智は表情を歪めて慧の言葉に渋々頷いた。 そして、ステージを仰ぎ見る。 「佐伯理事長」 名を呼ばれて佐伯が振り返った。 見知らぬ人物だ。 いや、違う。あったことはないが、写真で見たことはある。もちろん、彼の素性も調べた。 旧姓、岡崎勇次。 今は米国人と結婚して帰化したため、名前が違う。 「お初にお目にかかります、理事長。わたくし、聖帝学園の理事の一人でユージ・ウィリアムズと申します」 そう言って懐から名刺を取り出して渡した。 舞台袖では驚愕の声が上がる。 「...!どういうことだ!!」 「勇ちゃん、結婚してるんだよ?」 一にはまだ話していないと悪戯っぽく笑いながら勇次が言ったものだからも内緒にしていたのだ。 「いつ!?」 「もう2年位前かな?ご息女もいらっしゃいますよ?」 笑って言うに一は呆然とした。 「な..なんであいつはオレに言わないんだ!!」 「一って小さい物好きだからじゃないの?人様の娘だろうとデレデレして離さなくなりそうだから。あと、奥さん綺麗な人だし」 ケロリとしてが言う。 「オレ、親友だと思ってたのに」 「あ、そこに間違いはないと思う」 があっさりとそう言ったがなんだか嬉しくない。 「それで、ウィリアムズ理事。どういったご用件ですか?ご覧のとおり、現在は少々手が離せない状況なのですが...」 「臨時理事会の招集の要請に参りました。議題は、『佐伯理事長の不信任案』です」 勇次の言葉に佐伯は目を見開く。 「今年度、私の秘書があなたの行動についてじっくり調べてくれました。そこで明るみになったあなたの暴走。これは、理事として見逃すことは出来ません。 資料はすでに他の理事に渡しており、私を含めて5名の理事が臨時理事会の開催について賛成しておられます。これが、その書類です」 そう言って渡したのは、先ほど永田がに渡した書類だ。 佐伯はあわててその書類に目を通した。 書類に不備はなく、こうなったら理事会の招集をしなければならない。 佐伯は勇次の背後にいるに視線を向けた。 「ちなみに、あなたの秘書とは?」 「。まあ、1年契約ですが...私も仕事の都合上なかなか手が離せなくてこちらで調査等を行うことが出来ませんでしたので。ちょうど彼女が帰国するという話を聞いて、契約してもらったんですよ」 「...彼女は、あなたをこの学園から追い出した人物では?」 勇次の過去を調べた上で名前が出てきた人物だ。 彼女が転入してこなければ、彼はそのまま聖帝学園を卒業できたかもしれない。 しかし、勇次は首を振った。 「あのまま何事もなかったかのように周囲をだまし続けてこの学園を卒業していたら、私はクズのままでした。 親友を陥れ、虚勢を張り、後輩を脅迫して自分の地位を守り続けていたら、私はこうして他人の前に胸を張ってたつことはできていなかったと思います。 正しい道へ、ギリギリのところで深い闇に落ちるのをとめてくれたのが、彼女と、クラスXの担任と、そして、あなたが理事長に就任してからこの学校を去っていった先生たちです。 私は理事長のおっしゃるとおりこの学園を卒業していません。ですが、私にとってこの学園は母校であり、先生方は恩師です」 胸を張ってそう言った勇次には微笑む。 「おやおや、とても光栄ですねぇ」 不意にこの場に居ないはずの人物の声がした。 「げ!?オバケ!!」 清春が飛びずさった。 「清春君。ここは、しぃー、ですよ」 不意に現れたのは自分たちの恩師で数学担当教師だった衣笠だった。彼は微笑を浮かべて人差し指を唇に当てている。 「衣笠先生」 「さん。これを」 そう言って封筒を渡してきた。 「彼は快く証言してくれましたよ。もちろん、今度の臨時理事会にも証人として同席してくださるそうです」 どうやって『説得』したのか分からないが、聞きたくないのでは頷くだけにした。 「何だ、それ」 「会計関係の..有益な証拠書類」 濁して言うに詳しいことを聞こうとするものはなかった。 ただ... 「、マジ怖ェんだけど...」 「そ、そうだな。は怒らせない方がいいかも知れんな」 彼女の見方は変わってしまった。 |
桜風
09.11.27
ブラウザを閉じてお戻りください